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8.坊さんだって人の子

ルンチ県ジャン村である農家にインタビューを行った。調査の目的は、一農家の立場・視点から農村の実状や問題点を探ろうとするものである。

私が担当した農家の家族構成は下図の通りである。

ブータンは女系相続の社会である。男は外に出て結婚相手を見つけその家に入る。土地や家作、その他資産は娘が分配相続する。インタビューに答えた夫も同様である。いわゆる「養子」ならさぞかし肩身が狭いのだろうと想像したが、ここのご主人は違う。一家は約1fの農地を持っているが、働くのは妻と妻の妹(17歳)のみである。では、夫は何をしているのかというと・・、「何もしていない」のである。たまに牛や馬の面倒を見たりしながら家でブラブラしているそうだ。妻もその母親も一切不平不満は言わないのだそうだ。しかも、家計構造を詳細に訊いてみると、支出に対して収入は3分の1以下である。さらに訊けば、残りの3分の2はティンプーにいる親戚が仕送りをしてくれるのだという・・。

なんでも、このご主人はかつて僧侶をしていたという。20年間もルンチ・ゾンの中にある寺で修行を積み、その後俗世に戻ったんだそうな・・。「自分は17歳から37歳までの20年間、僧侶として修行を積んできたから、仕事はできない」、と彼は言う。なるほど・・、僧侶は敬虔な職業である。そのお坊さんに畑仕事などさせられないのか・・。

あれっ??ちょっと待ってよ・・。

「あなた、17歳から37歳まで寺で修行をしていたのに、どうして14歳と7歳の子供がいるんですか?」

「いやぁ・・・、だから・・、ねぇ・・。そのぅ・・。わかるでしょ? お務めにこの村に来て泊まったときにね・・、そういうことで・・。で、しばらく秘密にしてたけど、いよいよそうもいかなくなって、俗世に戻ったわけで・・・。」

なんとも、するどいお坊さんだ。修行を始めて10年後の27歳の時に、お務めの際に泊めてもらった檀家(?)の18歳の娘との間に子供をもうけ、10年間も通い夫をしていたとは・・。ブータンでは、女系相続社会であるが故に「夜這い」の習慣がいまも残っているという。金持ちの娘に積極的に「夜這い」をかけ、いわゆる逆玉をねらう。それは坊さんとて同じなのである。(ごく一部の坊さんであると思いますが・・・)

2002年5月12日

なんとなくただの「なまけもの」に見えなくもないご主人。でも、とても気さくないい人でした。村人達にお経をあげたり、先祖供養をしたりも・・、するんだろうなぁ・・・? インタビューに答えてくれた農家の面々。モンガルに比べこの村の生活レベルは低く見えた。市場もなく、現金収入を得る方途が見あたらないのだろうか・・。

 

 

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