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21.幸せって何だ?

9月19日に再びブータンにやってきて早速現場に入った。そして、24日にはルンチ県のコマ村を訪れた。ここでは現在、住民参加(労働力無償提供)による農道建設アプローチの実証と技術移転を行っている。予め訪問について知らせてあったこともあってか、たしかに現場では20名以上の農家(受益者)が出てきて一生懸命に作業をしていた。だが、進捗度合いからみても、やはり毎日作業を続けていたことが見てとれる。

工事風景。真ん中が発破士のおじさん。岩の目を見ながらダイナマイトを仕掛ける位置を指示し、削岩機で穴を開けさせる。削岩機を操作するのはやはり農民。後方は発破後の岩を谷に落とす農民達。作業風景を自然な感じで撮りたかったったのだが、どうしても皆構えてカメラ目線になってしまう・・。

彼らが一生懸命に作業に参加するには三つの理由がある。まず第一に、彼らの住んでいる村へのアクセスが非常に悪く、「自分たちだけででも道路を建設したい」という強いニーズがある。彼らは食料品から家具、脱穀機などありとあらゆるものを「徒歩」で運ばなければならないのだ。だから、どうしても耕耘運搬車の通ることができる道路がほしいのである。

二つ目は県知事の強い指導力である。調査の試験的実施にもかかわらず、県知事は「農民のモティべーションを高める必要がある」と、去る13日には『起工式』まで開催した。こうした知事の政治力によって住民は「やる気」を出し、自らのために積極的に事業に参加するのである。

 

「テープカット」ならぬ「テープ結び」の儀式。「切れる」のは縁起が悪いらしい。左写真中央が知事。式典には高僧やら県の有力者が多数列席。右写真はコマ村への現道。小学校の机を運ぶ住民。大きめのものはかえって馬では運びにくい。バランスをとるのが難しいのだ。

三つ目は、彼らの「宗教心」である。実はこのコマ村まではわずか5キロの道のりにすぎないが、その奥約70キロのところに「シンゲ・ゾン」という、彼らの宗教上の「聖地」があるのだ。そこに行くには片道徒歩で3日半かかる。そして、その「聖地への道」を整備することは、より多くの住民に恩恵を与え彼らを幸福にするための「聖なる事業」なのである。知事が住民へ話す内容もそういった主旨のことであった。

 

 

コマ村を訪れた帰り道、ある家族の一行とすれ違った。息子をおんぶした父親とその父。そしてもう一人は弟だろうか。行き先を尋ねると、「この息子の病気がよくならないのでシンゲ・ゾンに連れて行き、高僧にお祈りをしてもらうんだ」、とのことだった。しかし、彼らが住む隣郡のガンズールには、手術のための設備も整った県立病院がある。その病院には日本からも医療器具などが援助されている。だが、その県立病院の前を通り過ぎて彼らはコマ郡までやってきて、さらに3.5日間、雨の中をシンゲ・ゾンまで行くのである。子供の病気が悪くならなければいいが・・。

 

シンゲ・ゾンを目指す家族。子供は見るからに青白く、具合が悪そうだった。本当にこれから往復7日間、大丈夫なのだろうか? 右はコマ村の郡長さんの家。30日から正式に電気が通じるコマ村だが、この日は「試験通電」が行われていた。よく見ると、冷蔵庫、電気ポット、電気鍋と新品の電化製品が箱に入ったまま置かれている。これらもすべて「徒歩」で運んできたものなのだ。

我々がモンガルに入った22日は祭日で、村のあちこちで催し物が開かれていた。国道の道ばたに「死んだように寝込んでいる」農民を何人見かけたことか・・。アスファルトの上に、うつぶせに大の字になって寝ている女性もいた。

多くの村人が、病気になれば占い師や高僧にまずはお伺いを立てる。祭りではARAを飲み、何キロも歩いて帰る道すがら、道路の脇で大いびきで寝てしまう。 ブータンの国家開発目標は「Gross National Happiness」(「国民総幸福」と訳す)である。これは我々のプロジェクトの上位目標にもなっている。

電気も道路もなく、トウモロコシしか食べられない人がたくさんいるこのブータンで、時に「彼らは我々日本人より幸せなんじゃないだろうか」、と思うことがある。 陽とともに起きそして寝る。畑でトウモロコシと少しの野菜を栽培し、牛を飼ってチーズやバターを作る。トウモロコシで地酒のARAを作って飲む。そして寝る。 

「いったい幸せってなんだろう?」 この単純な疑問の答を見つけなければ、ここでの私たちの仕事は終わらないように思う。

 

 
   

 

 

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