22.夜這いはすれど・・ ブータンの農村では「夜這い」が活発に行われている・・。 な〜んていうとひんしゅくものだが、たしかにブータンの農村部では昔から夜這いの習慣があったらしい。それだけ「性」に関する「倫理観」みたいなものにも相違があるのだろう(いや、日本だって同じか・・・)。 しかし、現に私が滞在しているゲストハウスのマネジャーも、「いやぁ、彼女の部屋から逃げ出すときに、彼女の父親から包丁を投げつけられた事があるよ」、とかいうし、ルンチ県のカウンターパートは、「今度村に行ったら俺がいい娘を紹介してあげるよ。でもな、子供だけは作っちゃ駄目だよ。」、とか真顔で言う。 もとよりそんな事は考えもないが、「男女のつきあい」に関してあまりにもオープンというか、あっけらかんとしているのには正直言って驚いた。 かといって、女性が弱い訳でもない。「女系相続」が多く行われている東部では、男は家を出て「嫁さん探し→マスオさん」のパターンが多い。女性が相続する家作を、より大きく広げその家族に富をもたらすのが男の役割なのか・・。たしかに元締め的に財産管理をしているのは妻またはその親の場合が多い。 離婚件数も非常に多い。最近では離婚女性を保護する法律もできた。離婚する場合、夫はその給料の25%(だったと思う)を妻に一生払い続けなければならないのだ。また、最近聞いたうわさ話では、僕達のいるモンガル県の判事(一人しかいない)も、ティンプーの裁判所での3週間をかけた離婚訴訟の末、最近ティンプーの前妻と別れ、モンガルで知り合った女性と再婚したそうだ。
ところで、6月まで私の事務所で仕事をしていた20才の女性は、モンガルの母親のもとにから事務所に通っていた。その後、短大に進学するために事務所の仕事を辞めたのだが、彼女の家もまた複雑なのだ。 彼女は実の両親が離婚したあと、父親について継母と、その間にできた義妹としばらく暮らした。しかし、その二人もまた離婚し、彼女は就学の関係から実父ではなく義母と義妹と一緒に暮らしはじめる。しかし、義母は再婚し、彼女は義母、義妹そして義母の再婚相手と同居しつつ高校に通った。そして、短大の試験に合格した彼女は、実母、実父にも挨拶をし、ティンプー近くの短大の寮に引っ越していった。調査団員のティンプー上京車に便乗して・・。
その彼女の実母が、我々が調査工事を行っているルンチ県コマ郡コマ村にいた。モンガルから車で2時間半、そこから歩いて1時間半の村である。 9月24日に、その工事現場を訪ねた私たちが、村に着いて最初に休憩したのがその実母の家だった。彼女は娘が僕達の事務所で働いていることを知っていた。お茶とお菓子を出してくれた。そして、娘の子供の頃の写真を見せてくれた。 「不二家のペコちゃん」(かなり古いな・・)のように可愛らしい写真の彼女は今も変わりない。 母親は本当にうれしそうに娘のことを話してくれた。 いま、細々と織物を売って暮らす彼女は、本当の「ひとりぼっち」。 県道から歩いて1時間半のこの村で、彼女はひっそりと暮らしている。
村を出るとき、僕達が深い沢を回り込んで谷をわたり、対岸で見えなくなるまで、彼女はずっと僕達を見送ってくれた。村が見えなくなる最後のカーブを回るとき、振り返ると、彼女は大きく手を振って僕達を送ってくれた。
どんなところでも、人が肉親を思う気持ちには変わりはない。出会い、別れ、喜び、悲しみ、憎しみ、怒り・・。 世界中どこでも、人間がやっていることの根っこにあるものは同じなんだろうな。
郡長さんの息子とともに見送ってくれたお母さん(左端) |