ただいま出張中 


23.あるカツ丼に見る技術移転の難しさ

 

一人さびしく日本食屋(?)でカツ丼を食べた。

ホテル近くのそのレストランには、かつて当地に従事した青年海外協力隊「日本食調理指導隊員(?)」の教え子がいる。たしかにメニューはなかなかふるってる。カツ丼、カレー、親子丼にスキヤキまである。しょうが焼きだってコロッケだって肉じゃがだってあるぞ。はさみ揚げだとか八幡巻きなんて僕自身知らないものもある。 でも、残念ながら、刺身はないんだなぁ・・・。ブータンは内陸国だし、魚は本当にないなぁ。

 

レストランの中は「妙に」暗い・・。なんでこんなに暗くするんだろう? しかも全体的に暗室のような「赤〜い」照明。いわゆる「赤線」のことを「Red Light」というんだけど、とにかくヒジョ〜に怪しげ。しかも店の入り口にゆらゆら揺れる「やきとり」赤ちょうちんの不気味さ・・・。

 

カツ丼とビールを注文してしばらくすると、スーツ姿に身を包んだ青年海外協力隊のお二人現る。(彼らはコンピュータの技術者で、計画委員会で仕事をしている。計画委員会の建物は正装していないと入られないんだよね。)

 

彼らの仕事はブータンじゅうを回って、県職員に「オンライン統計処理システム」構築のためのパソコンの基礎訓練をすること。本当に大変なんだなぁ、彼らの仕事・・。やりがいはあるだろうけど・・。とにかく、コンピュータと言っても「入力」と「保存」と「印刷」しか知らないような人たちを相手に、データベースとか教えるんだから・・。楽じゃないよな・・。

 

彼らの話によると今日はここで、当地に来ている「地球の歩き方」の編集者に「ブータンでのおもしろい話」を聞かせるんだそうな。ほかの協力隊員も呼ばれているらしい・・。僕も誘われたけれど遠慮させていただいた。ついつい話しすぎてしまうから・・。

 

 

そうこうするうちにカツ丼がやってきた。

実は、先日ここにやってきた部下の「欠食児童I谷くん」(食っても食っても太らないやつ)が、カツ丼を頼んだところ、「おじやのうえにぐっちゃぐちゃの具が浮いた『ねこまんま』みたいなものだった」というのだ。

 

そうは聞いていたものの、ついつい「引き込まれるように」、「カツ丼ね、ごはん少な目」と頼んでしまった自分。そして、目の前に置かれたものは、やっぱり「ぐっちゃぐちゃの ねこまんま」だった。味はたしかにカツ丼なんだけど・・、なんかなぁ・・、ちがうなぁ・・。

こんなんでも誰かと一緒に食べればそれなりに楽しめるんだろうけど、一人でこのカツ丼くんと対峙するのはなかなかつらいものがある・・。

 

結局、半分食べて勘定を済ませ、協力隊と地球の歩き方の編集者に挨拶をして店を出た。

 

それにしても・・・。

日本のODAの一翼を担ってブータンまでやってきたこのカツ丼・・。

隊員がいた頃は「れっきとしたカツ丼」だったんだろうなぁ・・。

いつのまにか、時が流れ、かくも変節してしまったカツ丼・・。

聞くところによると、ここの玉子丼はインドから輸入した玉子(黄身が白い)を使っているので、「真っ白」だそうだし、揚げ出し豆腐は「硬〜〜い」んだそうな・・。

 

やっぱ、難しいな、「技術移転」。

プロジェクトの評価5項目(効率性、有効性、妥当性、インパクト、自立発展性)のなかでも「自立発展性」(sustainability)がやっぱ最終的な課題なんだなぁ・・。納得!

 

でも、この店のすばらしいことは、完全なローカル価格であること。日本食だからといって日本人を相手に商売をしてる訳じゃない。客のほとんどがブータン人。

安いからなぁ・・。カツ丼が60ニュートラム(150円)、ビール大瓶が40ニュートラム(100円)だからねぇ・・。文句は言えないか。

 

でも、覚えている間はきっと来ないだろうな。

 

ちなみに、『食通日記』(http://www.sambe.info/linkP4.html) 的に評価すると、この店の評価は「C:おすすめしない店」(お金を払ってまで行かなくてもいい店。すすんで『やめなさい』とは言わないが、訊かれたら『やめなさい』という店。『覚えている限り、二度と行かないだろう』と思う店。2,3軒この手の店に行くと腹立たしくなる)ですな。

 

 

左が「ツユだく」のカツ丼。なぜかグリーンピースが乗っかっている。なんか見るからに「ぐっちゃぐちゃ」なんだなぁ・・、暗くて見えないんだけどさ。右が店内。入り口のところに「やきとり」の赤ちょうちん。とにかく暗くてメニューも見えない。

 

2002年9月30日

 

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