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29.ブータン教育事情

11月14日のチェチュを前に、ゾン構内は坊主の踊り練習、郡選抜歌踊り少女隊、村人ダンサーズと、それぞれが忙しく練習を続け非常ににぎやかになってきた。そして今日の午後、構内に子供達の「ワイワイガヤガヤ」と明るい声が響きわたった。外に出てみると、ゾン中庭の塔のまわりに配された「マニ車」(なかにお経の書かれた紙が入っていて、1回まわせば、お経を100回唱えたのと同じ功徳があるとされている)を、背伸びをし、飛び跳ねながら回している小学生達がいた。かわいい、かわいい。みんな必死でマニ車を回している。

塔の外周に100を越すマニ車があり、時計回りに回りながら、そのマニ車を一つ一つ回していく。

聞くところによれば、彼らは進級試験の合格祈願に来たという。

ブータンでは小学校(Class 1〜6)→中学校(Class 7〜8)→高校(Class 9〜10)→上級校(Class 11〜12)があり、教育費自体は無料である。そして、教育はすべからく英語で行われている。だから、ブータンの小中学生はみな英語を話す。僕達より上手なくらい・・。 そして、なんと小学校から「進級試験」がある。1年生の終わりに進級試験を受けて落ちたら2年生にはなれず「留年」となる。だから、なかには13才の小学校1年生もいる。 一方では、「卒業」という概念はあまりなく、「クラス○まで行きました」というのが、いわば受けた教育のレベルとして受け入れられている。一応、クラス10まで進んでいると就職などの点ではかなり有利となる。

でも、考えてみると、小学校からの留年制度は就学率を下げる要因になっていると思う。たしかに教育費はタダではあるものの、制服や文房具、鞄などは自己負担である。食費もかかる。特に、貨幣経済が発達していない地方の農村部では、現金収入自体が少ないために、家計に占める教育費の割合は非常に高い。そこに「留年」などとなると、ドロップ・アウトの率も高くならざるを得ない。

ここにマニ車を回しに来ている子供達は恵まれている。みんな制服を着て、靴を履いてお寺参りに来ることもできる。一方で、地方ではまともな服を着られない子供もたくさんいる。

ブータンの一般農家はおしなべて「生活に満足している」ように思える。ただし、病気などの「不幸なハプニング」がなければ・・。 こうした「不幸」に見舞われたときには「現金」が必要となるが、「自給自足」的生活形態を送り、現金収入の少ない一般農家では、対策もままならない。こうした「非常時の対応可否」は、ほとんど「収入の多少」、「生活水準の高低」によって決まるからだ。

そして、「収入の多少」、「生活水準の高低」を決定づけるのが「教育レベル」である。貧しい者は教育関連費を捻出できずにドロップアウトする。したがって貧しいままである。システムが悪いとは言わないが、地方の貧しい農家を訪れるたび、そして学校に通わない子供達を見るたびに、その家族の健康と、多くの現金を必要としない安寧な暮らしを祈るばかりである。

2002年10月22日

 

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