34.インド人の辞書に「ごめん」という言葉はない
ブータンへの最後の出張を終えてインドに入った。 メンバーは官側(JICA)から2名、そして調査団から私の計3名。 目的はインドにあるブータン関連機関を訪問し業務の報告をすることである。 ブータンには日本大使館がないのでインドの日本大使館が兼轄しているし、JICAも正式にはブータン駐在員事務所ではなく、インド事務所が兼轄している。調査団はこの業務遂行の過程で3度インドに渡航して業務報告をすることとなっていて、今回が最後の報告であった。
今回、デリーの宿泊は「ホテル日航ニューデリー」。 我々が翌日のデリー発成田行きJAL便を利用するために、JALが「タダ」で一泊分を提供してくれるのだ。
ところが、ここの一部従業員は「典型的(態度の悪い)インド人」(?) 「傲慢」なことこの上ない。
チェックインの際、官側の2人が先にチェックインを済ませ、私も手続きを済ませて離れかけたとき、係りのターバン大男に後ろから、
「3人なのにバウチャー(宿泊券)が2枚しかない・・」、と強い口調で呼び止められた。
私は官側の2人のバウチャーには2人分の名前が書いてあると思っていたので、
「2枚のうち1枚には2人の名前が書いてあるのでは?」、と言うと、彼はバウチャーを見て2人の名前があることに気づいた様子・・・。「あ、すみません」、と言うのかと思ったら、
「Yes, that's right」(そう、そのとおり)、の一言・・・。唖然とした。
(まったくインド人は・・・。ひとこと、「あ、すみません」って言ってみろよ)
翌日チェックアウトの際、今度は「ツンっ」としたお姉ちゃんが係り。
慇懃無礼なその態度は決して気分のいいものではなかったが、別に害があるわけでもないし黙っていたが、
「はい、こちらです」、と出された支払伝票を見ると妙に金額が多い。 (「おかしいな」)、と思って見ていくと、「宿泊費」というのが入っている。 (「タダなんだから宿泊費は入れないのじゃないかなぁ・・・。合計の前でマイナス勘定もされていないし・・・」)、と思って彼女に、
「あの、これ宿泊費入っているんですけど、これはJALが払うんじゃないんですか?」、と尋ねると、一瞬その伝票を見つめたかと思うと、彼女は顔色一つ変えず、
「もう1枚打ち出します」、と言った。
打ち出された伝票には宿泊費は入っていなかった。
間違いは誰にでもある。人間だから・・・。 でもね、間違ったら訂正する前にまずは一言「お詫び」でしょうが、客商売ならさ。 (「ごめんなさい」、「申し訳ありません」、「あっ、やばい」、何でもいいんだから・・・。せめて、「しまった!」っていう気持ちを顔に出して表現しろよな。)
インド人の辞書に「ごめんなさい」という言葉はないんだな、本当に・・・。
そういえば思い出す、10年前、同じくブータン帰りのデリー国際空港での話・・・。 私と石川さんは空港ラウンジに荷物を置き、交替で免税店に行った。まずは石川さん。石川さんが帰ってきて、今度は私がとある免税店で買物をした。
空港に来る途中で寄った土産物店で細かいドル紙幣を使い切った私は100ドル札数枚しか持っていなかったので、なるべく100ドル近くに収まるようにと注意しながら酒やチョコレートを買った。レジに行って100ドル札を置くと、係りが一つ一つの品をラッピングした。その動作が妙にのろくイライラさせられた。
業を煮やして、 「早く勘定してよ、もうラッピングは適当でいいから」、とせかすと、係りは、 「98ドルです」、と言い、ラッピング用紙の下にあった「私の100ドル札」を・・・・、ん?
「お客さん、これ10ドル札ですけど・・・。」 「え? 100ドル払ったはずだけど・・。」 「いいえ、これ10ドルですよ」、と係りが言う。
(あれぇ、100ドル札しかなかったと思ってたんだけど、10ドルもあったのか)
と思って100ドル札を出し支払いを済ませた。
ところがラウンジに戻ってから石川さんに、
「いやぁ、ダメですね、ボケちゃって。疲れてるのかなぁ。100ドルだと思って出したら10ドルでしたよ。札が同じですからねぇ・・・」、と言うと、石川さんが、
「えっ? 俺もだよ!」
そこで初めてだまされたことに気づいた自分はおろかだったが、わずか15分の間に大胆にも同じ手口で日本人相手に詐欺を働いたインド人(しかも国際空港の免税品店で)には驚かされた。
なによりも悔しかったのは、帰国後同僚にその話をしたら、
「あれぇ、知らなかったんですか? 有名ですよ、あそこの店は。何回もインドに行ってるから知ってると思ってました。」、と言われたことである。
悔しさのあまり在日本インド大使館に抗議の手紙を送ったが、当然のことながら何の返事も返ってこなかった。インド人だから・・・。
「いいですか、この店ですからね、気をつけてくださいよ。札は支払いの最後の瞬間まで放しちゃダメですよ。相手が握ったら放す、いいですね」
官団員のおふたりに「しっかり」とインストラクションをして、私はラウンジに向かった。
2003年2月18日 |