ただいま出張中 


35.見落としはなかったか?

 

突然だが・・・、ブータンの仕事も99%完了した。

昨日東京JICA本部で最終報告書の理事説明会が行われて、無事終了した。

農業担当理事のほか、部長、次長、課長2名、代理、担当、そしてジェンダー担当の技術嘱託にも出席いただいて、当方からは担当取締役と私と調査団員1名。

 

冒頭20分の説明をして、さらにJICAへの提言など、約30分で私の説明は終わった。

前日ブータンより連絡があり、我々が提案したプロジェクトの一部がすでにファイナンスされて今月中にも予算執行されるとの話があって、それをちょっぴり自慢げに披露したりもした。

 

質問はいくつか受けたが、どれもしっかりと応えられたし、いい評価をいただいたと思う。

説明しながら、応えながら、途中からぼーっとしてきた。

なんか少しずつ思い出した。カウンターパート、ルンチやモンガルの農家・・・。

たったの1時間の説明会だったけど、すごく長く感じられたなぁ・・。

これで終わったんだなぁ・・、って感じか・・。

 

JICAからの帰り際、担当に、「今度はどこの仕事やるんですか? また、頑張りましょう」、と声をかけられて嬉しかった。でも、全然「当て」はないんだな・・・。

 

 

午後は神田の印刷業者に行って最終報告書の装丁や印刷の打ち合わせ。18日には試作版ができ、JICAに完了報告書とともに納品する。

 

印刷業者の事務所を出て狭い路地を歩いていると、妙に周りのビルが高く、人の流れがゆっくりと見えた。歩道で「詰め将棋」の商売をやっているオヤジ(一手300円は高いんじゃないか?)がいたり、なんかおもしろかった。

 

プロポーザル書きから1年ちょっと、嵐のように駆け抜けた1年だった。仕事の流れにすがりつくように、必死で走ってきたけど、もう歩いてもいいんだなぁ・・。

自分がゆっくり歩けば周りの様子がよく見える。ブータンでももっとゆっくり歩きたかった。そうすればもっと人々の暮らしや顔が見えたはず・・。これもいい教訓か・・。

 

支店を出て羽田に向かうとき、駅裏の芝離宮庭園に寄った。真っ昼間、スーツを着てぶらぶらとこんなところを歩いていると、「ハローワーク帰りの失業者」そのもので、まさに今の自分にピッタリのような気がした。

 

庭園の写真を撮っていると、ふと向こうに浜松町駅JR跨線橋が見えた。

「ああ、あれが浜松町の耐候性鋼材の跨線橋かぁ・・・」

 

ブータンで自分の会社が施工監理をしている国道橋は、さび止め塗装をしなくてもいい「耐候性鋼材」という材料を用いている。予めさび代(しろ)を取って、鋼材も銅を少し入れるなど、さびても構造に影響がないような設計になっている。でも、見た目にはやっぱり「さびている」んだなぁ。ブータンでその橋を見た現地の人が、「もうさびている」とか、「いつ塗装するんだ?」とかよく聞いてきた。私はその都度「耐候性鋼材」のことを説明したが、頭では理解できても何となくしっくりこない様子。そこで私は会社に、日本にある「耐候性鋼材」を使った立派な橋の写真を送ってくれ」って頼んだことがある。そして身近なところにあったのが浜松町の跨線橋だった。

ところが、帰国して、支店に寄るたびに、モノレールに乗るたびに、その橋を探したけど、見つけられなかった。その跨線橋が昨日は目の前にあった。

「なんだ、あそこにあったのか・・」。

 

 

写真奥が耐候性鋼材使用跨線橋

 

ブータンでも、ずいぶん見落としてきたんだろうな。大切な物を見落としていなければいいんだけど・・。跨線橋を渡りながらそう思った。

 

 

2003年3月14日

 

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