ただいま出張中 


7.浮き草暮らし

ホテルを移ることにした。昨日まで泊まっていたホテルはシンガポール人が7月にオープンした新しいホテルだったが、窓もなく、造りは正直言って粗末だった。テレビ、エアコン、温水シャワー、トイレとキングサイズのベッドがあって朝食込み一泊95米ドル、我々は「長期滞在」ということで85米ドルだった。それでも十分高い。

さらにセキュリティ上若干の問題があった。酔った暴漢が押し入り玄関のガラスが割られたり、複数のパスポートや現金盗難が発生した。客層は悪くはないのだが・・・。 ある日、同じホテルに滞在する日本人女性から「タイの船上ホテルで食事をしてきたんですけど最高でした」との話を聞いた。「レストランもバーもあってすてきでした。部屋もシティホテルのような感じでしたよ」とのこと。

早速、一緒に仕事をしているIさんと話をし、「最近ホテルの値段が下がっているようですし、いろいろあたってみましょうか」、といくつかのホテルを訪ねてみた。一泊三食付き40ドルのコンテナハウス(シャワー、トイレ別で非常に狭い)などいろいろあったが、いずれにしても我々のホテルは「高すぎる」ことがわかった。 そして、「タイの船上ホテル」を訪れた。Tariffには一泊税別で140米ドルとなっていたが、交渉した結果80米ドル(税サ朝食ビュッフェ込み)まで下げてくれた。冷蔵庫もついており、テレビも5局ほど見られる。部屋は狭いのだがさすが客船だけあって収納スペースが非常に多く、部屋内に余計なスーツケース等を置くことがない。

設備がまた良かった。レストラン、バーはもちろんのこと、プール、ジャグジー、ジム、タイ式マッサージ、サウナ、理美容室、パブ、ビジネスセンター・・・。船上デッキでは潮風に吹かれて星空を観賞することもできる。タイ人特有のホスピタリティの良さも気に入った。タイのセントラル・ホテルチェーンの経営だけに、要するに「高級ホテル」なのだ。従業員もホテルのプロフェッショナル、他のホテルのように「荒稼ぎに来た素人のホテル経営」とは違う。

ただ、問題は「高価な洗濯代」と「宿泊費の現金払い」だった。洗濯代は靴下一足が2米ドルとべらぼうに高い。我々は迷わず市内の小ホテルと「洗濯契約」(週5豪ドル。約350円)を結んだ。最初は少しでも地元の人に「金を落とそう」と、運転手に「洗濯のできるチモール人を探してくれ」と頼み、いたにはいたのだが、「一回一人分5米ドル」などと、前にいたホテル並の金額を要求され、「唖然」とした。ここでも「独立バブル」である。庶民までもが「なんとか外国人から金をむしり取ろう」と躍起になっている。

しかし、いま気がつかない金の亡者は間違いなく失敗(損)をするだろう。東チモールの「緊急復興期」は過ぎたのだ。各援助機関がこの国の中長期開発プランに目を向け始めたのと同じように、商売にも「長い目」が必要となっている。これからは「火事場泥棒」的な商売は相手にされなくなる。すでに「買い手市場」が始まっているのだ。いま消費者は「選択権」を持っている。「法外な要求」は「無視」されるだけで要求しても何ものも得ることはできない。

さて、話が脇道にそれたが、宿泊費の支払方法については、マネージャーに強引に依頼してクレジットカード払いで済ませることとした。この1ヶ月以内にはクレジット・カード決済ができるようになるとのことで、若干のデポジットを預けることで納得してもらった。我々はこのホテルに十分満足し、「引越し」を決意した。1日当たりに支払う金額は前のホテルよりわずか5米ドル安いだけだが、内容があまりに違う。 ちなみに現在日本人は我々以外には泊まっていない。

ところで、先週は(我々の席が設けられることになっている)UNTAETの農業部が引越した。しかし、依然として電気工事をやっていたりで我々の席どころの話ではない。こちらに来て2週間になるが、いまだに「自分の席」がない。車と携帯電話とノートパソコンがあって、「どこでも仕事ができるモバイラー」といえば聞こえはいいが、腰を落ち着ける場所がないのは本当に「疲れる」。常に動いていなければならないのだから・・。

ふと考えてみたら、今や宿舎も船になり、文字通り完全な「浮き草暮らし」になってしまった。「生活はともかく、仕事面では『地に足がついていない』などと言われないように」と、気持ちを引き締めた。

 

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