13.バブリー・クリスマス!
東チモール滞在も残りあと一週間である。記念すべき21世紀の夜明けをここで迎えるというのも一興だが、契約上帰らねばならぬ。いたしかたない。 当地は既にクリスマス真っ盛りである。今月の給料日は12月19日からの3日間で、給料をもらったら皆「国に帰って」しまう。すでに15日過ぎからここの政府機関は機能を停止しつつある。 それにしても相変わらずバブルである。なんでもかんでも高く、しかも実体がない。ガソリンは最近になって1g4,500ルピアに上がったが、峠を越えて南側では倍の9,000ルピアである。洗濯屋のおばちゃんは、「12月末まで」との約束で100豪ドル(約5,000円)を「前払い」したのに、最近は洗濯場に現れない。(現在、パンツ不足が私の頭を悩ませている)。運転手は相変わらず(8時出勤なのに)9時にも来ない。 先日、とあるNGOが頼みもしないのに調査の見積もりを持ってきたが、(作業の内容はともあれ)600万円という金額である。NGO1人につき、バイクを1日54米ドルで6ヶ月間レンタルする見積もり・・・。そんだけ払ったら、新車のバイクが5台も買えるでしょ、まったく! ニコニコしているところをみると、「本当に、お金の価値と自分たちのサービスの価値がわかっているの?」と思ってしまう。 一方、確かに「持っているヤツは持っている」のである。知り合いの中古車販売業者には、毎日のように東チモール人の客が訪れ、車を買っていくのだという。「この車、借りたいんだけど・・」とやってきて、「お客さん、それは売り物なんです」、と断ったら、「あっそう、じゃ、買う」と言って、30分もしないうちにキャッシュを1万米ドル以上持って買いに来るんだそうな・・。どうなってるの? 東チモールの中でも、東部のバウカウ地方の人々は「マカサエ」と呼ばれ、「気性が荒くて扱いにくい」と言われている。とにかく、誰もが口を揃えて言う、「言ってることがめちゃくちゃ、話しても話しても理解しない」、と。地元の人間に、「何処の人間が一番乱暴か?」と聞けば、100%が「バウカウ」あるいは「東の方」と言うであろう。確かになにかの話をしていて、何度説明しても、理解せずに自分の主張を繰り返すだけの人に、「あなた、ご出身は?」と聞くと、バウカウである。ただ、バウカウ人は警備員として雇うと、すこぶる具合がいい。なぜならば、「好戦的で強い」からである。もめごとがあっても、彼が一声かければ「100人は集まってくる」のだ(本当の話。バウカウ人の横のつながりは強い)。しかし、一度雇ったら、いなくなるか、辞めるまで解雇することはできないので覚悟しよう。 彼の中古車屋の警備主任は売り物の車を持ち出し、女性を車に引き込み乱暴して逮捕され、そのまま2ヶ月たった現在も、証拠物件の車ごと裁判待ちで拘束されている。それでも、雇用主は監獄に差し入れを届けることこそすれ、解雇はしていない。辞めるまでは辞めさせられないのだ。 電気代も水道代も未徴収の東チモールにあって、いよいよ来年から所得税の納入が義務づけられる。月100米ドルまでは免税(控除?)。100米ドル以上、650米ドルまでが10%、それ以上は30%の税率で、事業主が給料から天引きして納めることになる。これまで200米ドルもらっていた労働者は急に180米ドルしかもらえなくなる。納得しないだろうなぁ・・、インドネシア時代は所得税なんて払ってなかったんだから・・・。 さて、そんな「バブルと人」に業を煮やしたのか(この国にとっては全くもって憂うべき事であるが)、「他の途上国からの労働力流入」がすでに始まっている。私が以前滞在していたシンガポール人経営のホテルでは、東チモール人のスタッフを辞めさせ、ベトナムからコックはじめ従業員のほとんどを連れてきた。行きつけの中華料理屋も、タイからの従業員2人が住み込みで働いている。月100米ドルの東チモール人よりも、月25〜50米ドルのベトナム人の方が安くてよく働くし、同じ100米ドルなら、タイ人の方がはるかに仕事ができて任せられるのである。 「質が悪くて高い労働力」。独立バブルに燃えてやってきた、また、独立バブルの張本人である「火事場の外国商人」の罪は重いが、「調子に乗って要求し続ける東チモール人」の評価は、そんな裏事情を斟酌されることもなく、惨憺たるものである。自然資源のない国東チモール。その独立前に、人的資源に対しても辛辣な評価が与えられてしまい、上はUNTAETから下は女中まで、「外国人労働者に取って代わられる」この国の行く先は知れない。 とにかく、メリー・クリスマス! 東チモールバブルの象徴「ホテル・オリンピア」。オーストラリアから来たこの船上ホテルは、昨年のオープン当初は一泊200米ドル近く取っていたが、最近では80米ドル程度となっている。それでも十分高すぎて、泊まっているのは「特別割引価格」で泊まれるUNTAET関係者がほとんどである。部屋も狭く、部屋でシーク・カバブを焼いて食べるパキスタン人などが居たりして、厄介なことも多いそうだ。 |