4.カンボディアから学ぶこと
「国際協力」とか、「国際交流」というのは、やはり「学ぶこと」、「知ること」がスタートラインだと思う。そして、その目的はやはり「自分たちが利益を得ること」である。 最近、依頼を受けて講演会や研修の場で話をする機会が増えてきた。テーマは「国際協力」、「国際交流」、である。たいていは「発展途上国に何をすべきか?」、「国際協力にどのように関わっていくべきか」、というのが基本線にあるが、それに対する私の答えは上記の様である。 私は「北海道」出身である。出身というよりも、北海道に生まれ、育ち、学び、働き、そして現在も住んでいる。子供のころから「北海道で一番になりたい」とか、「北海道のためになる仕事をしたい」、とか思いながら、やはり広く世界で仕事もしたかった。結果的にこうした仕事をしているのだから、それ自体、たいへんシアワセである。 いまも「北海道のために仕事をしたい」と思い続けている。そしてその答えのひとつは、「国際交流」、「国際協力」を通じて北海道に貢献する、ということである。(かなり無理のある「こじつけ」かもしれないが・・・) 「国際協力」は決して一方通行ではない。それは貿易収支と同じで、日本からの協力(輸出)が多ければ多いほど、その不均衡さに批判が高まる。要は、「一部の日本人が海外に出ていって、その国のなかで仕事をするだけでは片手落」、ということである。「広く海外の人々や文化を受け入れること」、が必要なのだ。それがなければ「真の国際化」はありえないし日本のためにはならない。 ところが、相手のことを知らずに「何をするべきか?」などという議論をしても始まらないし、「何を受け入れるか?」などと考えてみても仕方がない。まずは、相手の国・地域を知る努力(第一歩はシステム作り)をすること、そして、「(日本人が)受け入れる心構えを持つこと」(啓蒙)から始めなければならない。
さて、なんの予備知識もなく「来てしまったカンボディア」である。いまだ、覚えた言葉は「オックン」(ありがとう)、と数字(1から億の単位まで)だけである。とはいえ、これで買物はできるのだが・・・。 さて、あとは何を学んだか? カンボディアの食物は辛くなく、全体的に甘い。料理にはニンニクが多用されている。これは、嗜好の問題であるから、慣れるか耐えればいい。ところで、米は1キロ20〜30円とべらぼうに安い。開発の観点からすると、コメが安いから、稲作のために過大な投資をしても回収できない。ある国際機関の見積もりでは、水稲生産基盤整備の妥当投資額は700ドル/fとされている。我々が一般的に計画する新規事業では、灌漑施設建設で5,000ドル/f、改修でも2,000ドル/fとされ、ダムを含むと7,000ドル/fを超える場合もある。それに対して700ドル/fである・・・。さて、これで一体何ができるだろうか? しかし、カンボディアの米の値段を知るだけで、「自分たちは何をすべきか?」というより、「これをして意味があるかどうか?」ということは、すぐに知ることができるのだ。いかに「相手を学び、知る」ことが大切か、ということである。 カンボディアの農村には電気がない。しかし、電気はないのだが、ラジカセやテレビを持っている農家は多い。村には、自動車用バッテリを発電器で充電してレンタルする商売人(農家)がいるのだ。一つのバッテリで約10日間、豆電球を灯し、ラジカセを聞き、テレビを見ることができる。写真の農家はこの商売で月650ドルの売り上げと、400ドルくらいの純益をあげている。高級官僚の月給15ドル、それに対して実際に必要な生活費200ドル、である。この農家が田圃(1.0f)所有で得る年純収入は、年一作(収量1.5トン/f)で生産費を半分見込めば100ドルに満たない。これは月にしても10ドル未満である。しかも、このコメはすべて自家消費で消えてしまう(カンボディアでは、なんと日本の6倍にあたる、ひとり年間精米300kg、一世帯5人平均で1,500kgを消費し、これは籾換算で2,500kg相当となる)から、現金収入などにはならないのである。 タケオ州トラム・カック県チン・トン郡の農家(バッテリ充電レンタル業) 話はそれるが、ドミニカの田舎では、電気は来ているものの良好な水源がなく、生活用水を業者から「購入」している村が多くあった。そこでは、軒先においた巨大タンク(200g程度)にタンク給水車から購入した水をためて使うのだが、なんと、その水を洗濯にも使っているのである(通常、買った水は調理・飲用とし、洗濯や水浴は川か水たまりで済ませる)。 しかも、「出前洗濯屋」がいて、バイクの後ろに洗濯機を縛り付けて各戸をまわり、洗濯して歩くのだからスゴイ! カンボディアに話を戻そう。電気がないのだから、当然のことのように電話線だって(市内しかないが)自分でひかなければならない。だからこそ携帯電話が広く使われているのだ。逆にインターネット接続は、携帯電話ならできるのだが、地上回線では都市間がマイクロウェーブで雑音が多いため接続できない。 携帯電話を使えば、電気もなく電話線もない田舎村で、しっかり海外とメールのやり取りができるのである。しかも、同じ携帯会社なら全国統一料金(市外も市内と同じ)で、プロバイダには携帯電話会社用のアクセス番号も用意されている。つまり、プノンペン市内からでも、ド田舎からアクセスしても、接続料金は同じなのである。さらに、通信料金は一般通話の26セント/分に対して、データ通信は9セント/分とほぼ3分の1の格安に設定されている。 日本では地上電話線がほぼ100%行き渡っている。そこに携帯が普及し、いまや人口カバー率は90%以上に達している。そして今度は地上回線が光ファイバーに置き換わろうとしている。どこまでいくの、ジャパン? カンボディアの平均寿命は50代半ばである。日本人はカンボディア人より30年長生きである。その分、幸せも多いが、不幸も多かろう。水も電気もなく不自由な環境で50年生きるうえでの幸不幸、消費し続けて80年生きることの幸不幸・・・。日本人がカンボディアをはじめとする発展途上国から学ぶことは多い。そのうえで、「自分達に何ができるか」、そして「相手国から学んだことをいかに我が社会の利益に結びつけるか」について考えるのだ。それが「国際協力」、「国際交流」の成果である。 |