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5.貧すれば鈍する?

Mr.Moneyが多い・・・。

「日当はいくら出すんだ?」、「もっと出してくれないと気持ちよく仕事ができない・・」、こういって何かにつけて「金の話題を持ち出す」カウンターパート(援助相手国のパートナー。専門家一人に一人のカウンターパートをつけるのが原則であるが、カウンターパート費用(旅費や日当)については、相手国政府の負担とすることが調査にあたっての両国間の取り決め事項となっている)のことを、私は「Mr.Money」と呼んでいる。

決して彼らを非難しているのではない。どだい無理なのである。多くの発展途上国では、カウンターパート費用など払う予算はないのだ。ここ、カンボディアで言えば、UNTACの明石特別代表が、「一日10ドル払いますよ〜〜」などと言ってしまったものだから、援助機関が政府職員であるカウンターパートに「金を払う」のは当たり前のことになってしまったのだ。

しかし、日本政府の公式スタンスは、「そんな金は出しません」である。国民の血税を他国の公務員の給料・予算補填に使うことはできませんよ、ということなのだ。これはリーズナブルなことだ。しかし、一方で、カンボディア政府に「カウンターパートの日当宿泊費をもて」というのも「無理難題」である。どうしても建前を通すならば、援助を止めるしかない。

先にも書いたが、カンボディアの公務員の月給は局長クラスでも20ドルである。それに対して生活費は10倍以上はかかる。残りの180ドルはどうやって稼ぐのか? バイトである、賄賂である、不正である・・・。いずれも日本では、というより多くの国々で禁止、あるいは犯罪とされている行為が、発展途上国では「仕方ないじゃないの・・」という行為として受け入れられている。

インドネシアでは、断食明けの休日前には業者が堂々と付け届けをする。里帰りの費用(現ナマ)を役所で堂々と配る。それがフツーなのである。

カウンターパートに訊いた。「なんで一日7時間も働いて15ドルくらいしかもらえないのに公務員やってるの? オレならその分他のところで働いて稼ぐね。じゃなかったら、どうやって生活費稼ぐんだ?」、と。 すると、我がカウンターパートは、「これよ、これ」と、ズボンのポケットに金を押し込む仕草をした。「業者の持ってきた書類にサインしたり、許認可に便宜を図ったり・・・」、ということである。

「犯罪だよ、それは! 公務員がそんなことやってちゃ国民に刺されるよ」、と私は言った。 しかし、それじゃあ、彼らはどうやって180ドルを稼げばいいのか・・・。給料を上げようにも原資がない・・・。

援助機関あるいは国際NGOで働く(日当をもらっている)政府職員はおしなべて「能力が高い」。英語が話せ、我々の意図を良く汲み取って、仕事も速い。だから、月500ドルくらい払っても惜しくはないのである。だけれども、そうした彼らが偉くなった暁にはそういった「バイト」をしなくてもその何倍もの金を手に入れる立場になる。そしてそれを良しとして(あるいは目標と)している。

貧しいことは哀しい。「生きなければならないとき」に、人は物事の善し悪しは二の次になる。KSDから金を受け取った政治家も、また同様である。どんなに偉そうにしていても、要は「公務員でありながら、利害関係者である民間企業から給料以外の金をもらっていた」のだから・・・。どんなに社会的地位や名誉を持とうとも、彼らは我々よりも貧しいのである。駆り立てられ、(彼らの社会で)生きていくために善悪の判断を失い、犯罪を犯してしまったのだから・・・。

我が発注者、国際協力事業団の厳格さは特筆すべきものがある。「利害関係者との飲食同席はたとえワリカンでも不可」である。しかも、同級生、友人ででもある。大学同期の友人(発注者)に、「今度、飯でも食おうや」、と言ったら、「だめなんだよね〜」と返された。

(「発注者と結婚したコンサル(受注者)は、どうすんの?」、と訊いても仕方のないことを訊いた輩もいたなぁ・・・。)

ともあれ、日本の庶民は誠実である。美しささえ感じる。まさに「清貧」なのだ。

そしてまた、給料だけで生活できる自分は本当に幸せだと感じている。これだけ「偉そう」な建前を吐けるのだから・・・。

2001年3月2日

 

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