ただいま出張中 

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Since April 17th, 2000 / Last Update March 14th, 2003


4.黄泉がえり

 

先週水曜日にマカッサルの事務所に着いたとき、用意されていた部屋は3年前と同じ部屋だった。プロジェクト自体が大きくなって、事務所も手狭になっているのに、我々3人にはしっかり一部屋を割いてくれた。

 

仕事用具を整理していると、次から次へと懐かしいスタッフが顔を見せに来た。3年前、5年前、あるいは10年前からずっと仕事をしてきたスタッフもいる。

 

所長のハリー・クラークはもちろん、オフィスマネジャーのウディン、秘書のハムシナ、警備員のハエルディン、事務員のヘルマン、運転手のガファル、ヘルマン、ハッサン。そして、かつてはアシスタントエンジニアだった、アジズ、マハディン、ナワウィらも、いまはみなエンジニアとなり車もあてがわれている。

 

写図工のアニには、3年前にAutoCADやフリーハンドなど、コンピュータを使った製図をみっちり教え込んだが、今回彼女が作ったという図面を見て驚かされた。みなすばらしいのである。

 

測量・調査を担当していたアリファイ、3年前にジャワに家族を残してサダンプロジェクトのためにやってきたワヒュディン(和風人と私は名付けたが・・)は、まだ同じサダンプロジェクトをやっている。飄々としたおとなしいエンジニアだが、彼が何気なくもってくる成果の膨大さにも驚かされた。5千分の1の基本図だけでも180枚以上あり、おそらく万単位の灌漑施設のインベントリも驚くべき量だった。3年前に、「これと、これ。そして、これもやっておくように」と言い残して帰国した私だったが、思いがけず長くなった不在期間のうちに、これだけの作業をコツコツとやってきた彼らに対して敬意を表したい。

 

先週末は地方の現場に出ていたスタッフも事務所に戻ってきた。そしてまた、ひとり、ふたりと我々の部屋に来ては挨拶をしていってくれた。

 

思えば炎天下を何週間もかけて、7,000haの灌漑面積を持つケララ・カラロエ地区の全幹支線水路150キロ以上を踏破し、すべての水路と構造物の調査、さらにインベントリ作成を行った仲間。それがマハディン、アジズ、アリファイそして女性にもかかわらず参加したアニだった。リーダー格のマハディンは、仕事が一段落つくと、「効率が悪くなるから次の作業に入りましょう」、と私を急かしさえした。

 

昔、工営のSさんと初めてSSIMPで仕事をしたときにも、彼は自ら足を運び、手を動かし、常に先頭に立って仕事をした。時にローカルスタッフを厳しく叱責することもあったが、それは「妥協を許さぬプロフェッショナルの姿勢」として、彼らには十分伝わっていたはずである。だからみな(自分を含めて)、ここまで大きくなった

 

「肝心なところでは決して妥協をせず譲らない」、この姿勢はコンサルタントにとって非常に重要なことである。自分の信念をその都度曲げていては、顧客を納得させ、安心させ、信頼を得ることはできないから・・。逆に、どうでもいいことには決して固執しない。「とらわれないこと」、もコンサルタントにとって重要なことであり、それはSSIMPのモットーのひとつ、「flexibility(柔軟性)」にもつながるのだ。注1)

 

会社の上司でも部下でもない。職種も違うし育った環境、宗教も違う。けれども、同じ目的をもってともに苦労し、さまざまな壁やギャップを越えてその達成感を分かち合った者同士の絆は深い。

 

3年前にここを離れる前に書いた「祝船雑感:15.水稲の海でおぼれかけて」(http:///www.sambe.info/zakkan.html)では、「計画屋としての限界」を感じていたこと、そして、それなりの成果を作って帰国した時に、長女の言葉に救われたような気持ちになったこと、を書いた。

 

その後の3年間に、東チモール、カンボジア、そしてブータンで仕事をした。すべてが有意義で、すばらしい経験だった。会社では、管理職として「頭の痛い」仕事も数多くあった。家族ともいろいろなことがあった。娘はいつのまにか(?)2人とも高校生になり、自分が面食らうようなことを言われたり、父親としての無力さを感じたりもした。その分、妻との連帯感(仲間意識)を深められたことは収穫だった。

 

そして、いま、ここに戻ってきて、エンジニアとしての自分がなんであるのか、この3年間に自分がどれだけ成長(?)したのかを、このプロジェクトを物差しとして感じている。3年前に書いたレポートを見て最初に思ったことは、「結構頑張って(苦労して)書いたな」ということ。穴もあるが総体的にきれいに格好良くまとまっている。おしむらくは、3年前に書いたように、せめてもう1年早くここに戻ってきてプロジェクトを前に推し進めることができればよかったのだが・・・。

 

これからの2ヶ月半は、いまの自分にとって必要な時間、来るべきして来た時間、であるに違いない。

 

気心の知れた仲間と仕事を楽しみながら、この間に自分が作り出すであろう成果を、他人事のように楽しみにしている。

 

2003年7月8日

 

 

注1)

SSIMPのモットーは、「responsibility(責任)」、「flexibility(柔軟性)」、「something new(常に新しいもの(こと)に取り組む姿勢)」、です。