ただいま出張中 

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Since April 17th, 2000 / Last Update March 14th, 2003


7.安寿と厨子王 in タムコック

 

休みを利用してニンビン省のタムコックに行ってきました。タムコックは「陸のハロン」とも言われ、内陸にありながら石灰岩のカルスト地形に広がる湿地帯を手こぎの舟で巡ることができます。かのカトリーヌ・ドヌーブの「インドシナ」の舞台にもなった景勝地です。

 

手こぎボートをチャーターすると、約2時間かけて3つの洞窟を通って往復する。実にのんびりして風が心地よく、世界遺産のハロン湾に勝るとも劣らない醍醐味があります。

 

 

ところで、この手こぎボートを巡る商売はこれがなかなか「スルドイ」のです。

まず、舟着場に着くと入場料5万ドン(約3ドル)と乗船料1万5千ドン(約1ドル)を払う。これって安くない?

だって、約2時間手でボートこぐんですよ・・。すっごい重労働でしょ? 大の男3人を載せて・・。

 

ま、とにかく舟は出発するのです・・。

 

昔は竹で編んだボートを使っていたらしいが、いまはブリキ製のボートを使う。ベトナムではボートは「前向き」にこぐのが特徴。確かに前向きだと方向もよくわかって舵取りは楽だな・・。器用に足で櫓をこぐ人もいる。

 

まずはボートに乗り込みます。客は前側に乗って、船頭は後ろ。どうしても前側が沈み込みます。ところで、上の写真の右側でベトコン帽子を被ってこちらの写真を撮っている人がいるでしょう。この人、約2時間後我々が戻ってくるのに合わせて写真を焼き増し(ラミネート付き)、売りつけるんですよ。

舟が出ると、近くの岸から別のボートが近づいてきて客の写真を撮ります。そしてすぐに船着き場脇の写真屋に行き、その分だけ焼き増しし、客の帰りを待つのです。最初は1枚1ドルなどと法外な値段をふっかけますが、それはそれ、完全な買い手市場。こっちが要らないと言えば売り物にならないのですから、最後は「投げ売り」でネガまでくれます。
別グループの舟のオーナーは母と高校生の息子。息子がこいで母親は舵取りです。でも、とにかく重労働。息子汗を流しながら必死でこいでます。ほどなく石灰岩の奇岩が迫り、本当にダイナミックな風景が流れていきます。 頭がつかえそうな洞窟をくぐり抜けボートは進んでいきます。雨期になると水位は1メートルくらい上がるというのでどうやってくぐり抜けるのやら・・。こうした洞窟を3カ所抜けて行きます。

 

さて、片道1時間で折り返し地点。祠のある休憩場に到着します。その休憩場の手前の洞窟には数艘のボートが「待機」。ボートにはパイナップルやらビールやらサトウキビやらが満載。

ま、気持ちがいいのでビールを買ったら、しっかり船頭夫婦の分まで売りつける気の配りよう。「船頭さんも喉が渇いてるから・・」、とビールを渡してきて、船頭は船頭で、「ビールよりコーラの方がいいな。それとクッキーね・・」、などと「売り上げ貢献」に余念がありません。なるほど、共存共栄ね。たったの1万5千ドンで済ませるわけにはいかないもんね・・。

 

15分くらい休憩すると、舟はとって返して今来た道のりを戻ります。客は同じルートを戻るわけで、写真も撮り終えているし、1時間も乗っているとさすがに少し飽きてきます。

そして、船頭にとってはここからが「勝負」なのです。

 

 

最初の洞窟を抜けた頃から舟のスピードは遅くなります。当方の船頭母子のうち、おばあちゃんはこぐのをやめました。息子(?)のオジサンも完全に櫓の動きが遅い・・。

 

おばあちゃん、おもむろにポシェットからラミネートされた写真を取り出しました。

見ると、女性が刺繍をしている写真。赤ん坊も写っている・・。おや?脇にいるのはほかならぬおばあちゃんではないか・・。しかも若い! 見るからに10年以上前の写真。

 

で、おばあちゃんが言うには、「これは私の娘、これが私の孫。娘は毎日こうやって刺繍製品を作ってるんだよ・・」と、言うか言わないかのうちに、舟に積んだブリキの行李から「へったくそな」刺繍の入った巾着袋、テーブルクロス、Tシャツなどを取り出しました。

 

刺繍の巾着袋を見せるおばあちゃんと息子。写真で見るとわかりにくいけど、仕事が雑なんだよなぁ・・。これで4ドルは高いんじゃないの? ブリキの行李から出るわ出るわ・・。テーブルクロス10ドル、Tシャツ3ドル・・・。はぁ〜〜〜。もうちょっとさぁ、欲しくなるものを売ってほしいんだなぁ・・。

 

結局私は巾着袋を数枚買いました。大きいの1枚と小さいの3枚で6ドルも払っちゃった。ま、仕方ないか・・。どこかでおみやげを買ってこれに包んであげれば喜ばれるかも・・。

 

 

こんなことをしている間に仲間の舟はどんどん先に進んでいき、とうとう見えなくなりました。

まるで「安寿と厨子王」状態・・。このまま自分が売られていくのはやだぞ〜。(そんなわけないか・・)

 

おばあちゃんの矛先は今度は同船者のNさんの方へ。私は退屈してきたし、仲間の舟に追いつきたかったのでおばあちゃんの櫓を取ってこぎ始めました。いや、これが結構疲れるんだなぁ・・。

 

しばらくこいでいたんだけど、どうも舟の進みが遅い!

さもありなん・・。オヤジこぐのやめちゃった。

 

どうやら、このボートツアーは往路はガンガンとばして復路は「ゆっくり、ゆっくり」 。「客に土産物を売りつけるまで戻らない」、みたいな根性の入れようです・・。

 

結局Nさんはテーブルクロス(言い値10ドル)を6ドルで買わされました。もう3年もハノイに滞在していて、ここタムロックにも何度も来られていて、ハノイではもっと質のいいものが安く買えるのに・・。気の毒なことをし ました。また、本当に優しい人なんだなぁ・・。

 

Nさんがテーブルクロスを買った後、おばあちゃんと息子は必死でこぎ始めました。

その速いこと速いこと!

 

 

そして、船着き場に着く寸前、おばあちゃんが言いました。

 

「ちっぷ」

 

(ひょぇ〜〜〜。このうえチップまで払うわけ?)

 

Nさんが、

 

「先ほどのビールの分もありますから、私が二人分で5万ドン(3ドル)払っておきますよ」、とおばあちゃんにチップを渡しました。

 

するとおばあちゃん、

 

「めるし〜」、って言ってにこっと笑いました。

 

(このおばあちゃん、英語はダメみたいだけど、ときどきフランス語使うんだよな。「3ドル」っていうのも、「トワ・ドル」ってフランス語だったもんな・・。)

 

(ま、満足してもらってよかった、さて降りようかな)

 

って思ってたら、おばあちゃんが後ろから「ポン」と私の肩をたたいて、

 

「はい、あんたもね」って手を出しました。

 

おいおいおい、ばあちゃんそりゃあないでしょう。それでなくても出来の悪い刺繍製品、おばあちゃんの娘と孫に免じて買ってあげたのに・・・。

 

そうこうするうちに舟は到着し、我々はおばあちゃんと息子に礼を言って舟を降りました。

 

すると、我々の舟にどっかのオジさんとおネエさんがやってきて、おばあちゃんに話しかけたかと思うと、舟に載せてあったブリキの行李を持っていきました。そしておばあちゃんからお金を受け取った のです・・。

 

なな、なんと、おばあちゃんが売っていたのは娘が作ったものでも何でもない、ただの「委託販売」だったのです・・。

 

いやはや、おばあちゃん、うまいねぇ・・。

娘と孫娘の写真をねぇ・・。

 

一体いくら払わされたのかな・・。

 

ビール、飲み物とクッキーが5ドル。巾着6ドル。テーブルクロス6ドル。チップ3ドル。計20ドルっす。乗船料1ドルは高いか安いか・・。客単価10ドルが目標なのかい?

 

ただ、ここには900を越すボートが登録されていて、客は3日に1度しかつかないんだそうな・・。ほとんどが農業との兼業。「モノにしたチャンスは逃がすな」ってことか・・。

 

舟を降りると待ちかまえていたかのように例の写真屋がラミネートした写真を持ってきました。

ま、結構よく撮れてたし、ネガもくれるので2枚1万ドン(約70円)で買いました。

 

もう一艘の舟担当(?)の写真屋は女の子。「5枚5万ドン」と引かないので、「いらない」と突っぱねたら、昼食終わるまでレストランの外で待っていて、それでも4万ドンと言って引かない。 こっちは最初2万5千ドンっていってたのを3万2千ドンまで譲歩したのに首を縦に振らない。(強情者!)

 

結局、車に乗り込む寸前に「ふてくされて」、

 

「いいわよ、持ってきなさいよ」、と言いだしました。そして3万2千ドンを渡すと、「いらないわよ」、と言って2千ドンを返してよこしました。

 

いやはや、老いも若きも、ベトナム女性は本当に商売熱心、根気が強く、気も強い・・・。

 

 

2004年12月5日