ただいま出張中 


25.高僧に訊きました

今日はモンガルでワークショップを開催した。優先郡2郡の関係者を招いての行動計画策定ワークショップ。充実したワークショップだったが時間が少し足りなかった。明日はルンチでのワークショップ。今日の教訓を明日に生かそう。

ワークショップの最後に知事による締めの挨拶をしていただいたが、その際に知事から、「実は、今日教育関連の別のワークショップがあったんだけど、その夕食会があるから調査団6名みなさん来てね」、とのご招待をいただいた。はたして、午後6時半に会場に行くと、副知事と知事の丁重な出迎えを受け、ひな壇に座らされてしまった。主賓であるモンガル県ダツァン(ゾンの中にある寺)の最高位の僧の隣に・・。

真ん中がモンガル一の高僧(「15.坊さんはビキニがお好き?」参照)。右が知事のDasho Lham Dorji氏。

会場には、県知事以下県の要職の面々と、モンガル県内の38小中学校校長が集まっていた。校長と言っても私なんかよりずっと若く、30代前半の先生も多い。ともあれ、総勢70名ほどが列席していた。本来なら、遠路はるばる見えた先生達が主役のはずだが、いつもこの手の宴会では、集まった人が知事やら高僧やら、「たまたま招かれた」外国人主賓のために、歌い、そして踊る。食事が出てきたのは午後8時半(つまり会が始まって2時間後)だが、最初にビュッフェに案内されるのは高僧、次に私たち・・。肝心の校長先生達は我々が食べ終わるまで歌い、踊る。 もっとかわいそうなのは田舎から出てきた娘さんダンサー。毎年郡の持ち回りで歌踊り少女隊を結成し、11月に行われる大祭(チェチュ)に向けて10月1ヶ月間、練習に練習を重ねる少女達がこの日招かれ、我々に歌と踊りを披露してくれた。

でも、彼女たち、まだ練習を始めて日が浅いためか、声は出ず踊りもそろっていない。校長達や県職員から叱咤され踊りを続けるが、なかなかうまくいかない。おまけに彼女たちが食事にありつくのは最後の最後・・。しかもやっと食事を始めたかと思ったら、食事を終えた私たち、校長、彼女たち以外のすべて出席者のために再び歌と踊りに駆り出される。ほほえみもなく、うつむき加減。中には知事から衣装の乱れを指摘されてあわてて直す子もいる。みんなまだ10代なんだろうなぁ。自分の娘を彼女たちに重ねてみると、「ご苦労なことだ」、と思った。「これがブータンの社会なのかぁ・・」、と思った。

 

左写真。モンガルの北「チャリ」郡の歌踊り少女隊。彼女たち、10月の1ヶ月間、1日1人100ニュートラムをもらって歌と踊りの練習をし、11月の大祭(チェチュ)に備える。一張羅を着て、校長先生や県のお偉方の前でめちゃめちゃ緊張してかわいそうだった。右写真は会場に集まった校長先生達。若いのだがさすがに歌と踊りは抜群に上手。

 

 

歌と踊りの間、食事を待ちながら「プロジェクトX終わっちゃうな〜」などと思っていた私は、ふと、隣に座っているのがモンガル一の高僧であることに、「このチャンスを逃す手はない」と考えた。

 

以前から思っていたのだ。調査当初、ゾンに入るたびに、中庭にたむろする犬数匹にほえかかられて閉口し、その都度「シッツッ」と追い払うか、傘で威嚇して追い払おうとしたが、小窓から見つめる「小坊主」の目もあって、あまり「見苦しい対処」もできないと思いながら苦々しい思いで事務所に「逃げ込んで」いたのである。そんなとき、「おお、小坊主、おまえの親方の偉い坊さんだったら、何匹もの犬に吠えかかられたらどうするんだ?」、と、私は訊きたかったのだ。

 

そして、今日、偶然とはいえ、その高僧が私の隣にいた。英語はあまり上手とは思えなかったが、思い切ってその高僧に訊いてみた。

 

「ゾンのなかで何匹もの犬が一斉に私に吠えかかり、いまにも噛みつかんばかりなんです。どうしたらいいでしょう。傘でたたくのは許されませんね。かといって、なにもしなければ噛まれてしまいます。どうしたらいいですか?」、と。

 

すると高僧は答えてくれた。

「あなたが恐れるから、犬は吠えかかってくるのです。恐れないこと。そして、その場に座り、「ツゥツゥツゥ」と口をならして犬を「あやして」あげればいいのです。少なくとも、犬が吠えかかってきたときに、その場にじっと立って犬に対して優しい気持ちを持てば、犬は何も言わずあなたの足下で昼寝を始めるでしょう。」

 

さらに、高僧は言った。

「たしかに、ゾンの中に犬が入り込んでフンをして汚したりするのは良くないと私は思っています。だから知事にも、低い柵をつくって犬が入り込まないようにしてはどうかと話しているところなんですよ」、と。

 

やっぱり偉いもんだなぁ。お坊さん。

「あなた達、いつも仕事してますね。朝早くから夜まで・・。声をかけようにもあなた達は忙しすぎます。こんど是非、時間を見つけて私の部屋に遊びに来てください」、と彼は言った。日本から持ってきた線香を持って、今度坊さんの部屋に遊びに行ってみますか・・。

 

今日は本当に「ありがたい」お言葉をいただきました。

信心、宗教心は国の経済力や発展の度合い、言葉を超越した尊いものなのだと、改めて感じました。

 

2202年10月8日

 

それにしても高僧はずいぶん英語が流ちょうだった。でも、会ったときにはいきなり「Good night」って言われて、とまどった。(たしかに夜だったけど・・)

 

先日、同僚のアパートで夕食を済ませ家に帰る途中、暗闇で後ろから「Good morning, sir」と言われて、「はぁ?」と思って振り返ると、小坊主が2人ニコニコと笑いながら立っていた。

「Good evening、ね」、と彼らに応えて歩き始めると、後ろで「morning? evening? ん?ん?」、と二人が話しているのが聞こえた。お坊さんは皆、結構気さくで楽しい。

 

2002年10月10日

 
   

 

 

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