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8.「三匹の子ぶた大作戦」〜前編

 

先日、調査団6名で調査対象地区内農家の調査を行った。RRA(Rapid Rural Appraisal:簡易農村調査)と呼ばれる手法を用い、調査対象地区の現状分析、開発ニーズの分析を行おうというものである。

 

調査は「sub-structured interview」という、「予め用意された質問の骨子」(どのような質問をするか箇条書きで書いたもの)に基づいて、すべての専門家がそれぞれ質問事項を分担して代表で質問し、他の専門家は所定の用紙に聞き取り結果を記入する方式で行われる。調査後は、専門家同士で議論を行い、共通認識のもとに調査報告書をまとめる。

 

要は、様々な分野の専門家が、一堂に会して聞き取り調査を行い、それぞれの立場から質問を補足し、確認し、解釈し、議論した上で、プロジェクトのベースとなる現状分析、ニーズ等についての認識を共有し、それに基づいて各専門分野についての開発計画を立てて行こう、というものである。

 

午後の調査は二班に分かれ、一村で二世帯の調査を同時に行った。

その日の調査対象は、私たち「くまさんチーム」が「未亡人世帯」、一方の「ぶたさんチーム」が「畜産(ブタ6頭所有)農家」である。

 

私たちが調査した未亡人農家の概要は以下の通りである。

 

『1980年頃に除隊した夫はマラリヤに罹っていたが、十分な薬も得られず完治しないままに3年前に病死。一家は52才で病弱の未亡人と6人の娘がいるが、皆「肺を患って」(おそらく私は肺結核と思う)いて満足に働けない。三女は近くの州立病院に入院している。唯一結婚した四女(17才)の婿(同居)もどうやら肺結核で重労働ができない。娘達は給食費(1日6円〜10円)が払えないこともあって、小学校すら一人も卒業していない。水田は0.7ヘクタールほど持っているが、そのうち0.3ヘクタールは、昨年薬を購入するための借金のカタに押さえられていて、人手に渡る寸前。12月に収穫した米ももう底をつき、たいていの農家が飼っているブタも飼えない。僅かな収入の3分の2は薬代に消え、村人からの義捐金も僅かで足しにならない。飲み水は乾期の干上がった水路の底に穴を掘って、しみ出た水を利用。薪を十分に「拾える」ときは煮沸するが、ほとんどの場合そのまま飲む。村にはほとんど仕事はないが、仕事をしたくても、借金のカタに労働で返すのに忙しくて、「収入のために」働くヒマがない・・・・・・。』

 

悲惨である・・・。質問する人の声、通訳する人の声がだんだん低くなっていく。「農業生産技術が・・・」とか、「肥料が・・・」とか、そんなレベルの話ではない。「予め用意された質問事項」が虚しく響く・・。

 

家。家具もフトンもなく、一家9人が寝起きする

水路底に掘った穴にしみ出る水を飲む

その日の夕食時は、「未亡人世帯」の話で持ちきりだった。

 

「あれは何とかしないと、近く一家全滅になる」

「少なくとも土地は薬代に消えてしまう」

「いや、今度くるまでに未亡人が病気で亡くなってしまうかも知れない・・」

「何かをしてあげるべきではないか?」

「いや、そういう家庭はほかにもたくさんあるはず・・」

「なにかをしてあげたとしても、我々の自己満足で終わってしまうのでは・・・」

 

と、様々な意見が出された。しかし、そんな議論が行き詰まったとき、水文担当の松浦さんの、「いや、そんな難しい事じゃなくて、これもなにかの縁なんだろうから、オレは乗るよ」、と差し出した10ドル札に、みなそれぞれが納得し、「それもそうだ、要は何かの縁があってすることなんだ」、と金を出し、結局65ドルの金が集まった。

 

「さて、この65ドルをどういう形(現金、モノ・・・)で彼女に渡そうか・・・。」

それがまた大きな議論となった。

 

つづく

2001年3月17日

 

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