ただいま出張中 

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Since April 17th, 2000 / Last Update March 14th, 2003


8.北の漁場

 

 

 実に3年ぶりに(正確に言うと2000年8月6日「ざりがに:和風人登場」参照)に、パレパレ沖の釣りに出かけた。この3年間、「もう仕事で来ることはないし、休みを取ってまで来ることもできない」と思っていただけに、実に嬉しい釣行だった。

 マカッサルから車で約2時間半。パレパレの手前15キロのところにある「パランロ」のとある漁港に「ソント」という漁師がいる。かつて日本工営が当地でダム工事の施工監理を行っていた際に、釣り好きのAさんというリーダーが、釣舟を注文してソントに預けたのがきっかけで、その後多くの日本人エンジニアが彼の案内で釣りに出かけている。私もその一人である。

 Aさんはすでに引退さえているが、今回私たちがインドネシアに来る少し前に、かつての仕事仲間で釣り仲間でもある、Iさん(同じく引退)と二人でパレパレに来て、2週間釣りをし、さらにスンバワに移動して2週間釣りをして帰ったというからすごい。私たちはお二人のことを「釣師」ではなく、「漁師」と呼んでいた。たしかにソントも舌を巻くほどの「名人ぶり」なのだ。

 初めてAさんに連れられてソントの舟で釣りに出かけたときは、仕事仲間のNさんともに「丸坊主」(全く釣れない)だった。夕方の4時から朝の8時まで寝ずに釣り糸を垂れても一匹も釣れなかったのだ。そして、Aさんは雨の降る中、ひとりで黙々と大物を釣り上げていた。仕事の時とは全く違う人に見えた。

 その「丸坊主」の悔しい体験をもとに、その後ソントの舟を借り何度も釣行に出かけ、やっとそれなりの釣果を得られるようにもなった。

 ところで、この釣りは竿やリールを使わない「手釣り」だ。深さ80mくらいにいる底魚をドラムに巻いた「スパゲティ」くらいの太さの釣り糸とその先につけた仕掛けで釣り上げる。魚の重みや、食いつきが直接手に届いてなんともダイナミックな釣りである。そのかわり、結構疲れる。とにかく、80mを何度も手で引き上げなきゃいけないんだから・・・。50回往復したって、釣れるのは10回もないし・・・、いいときでも・・。

 そんなわけで、3年ぶりの釣行。その様子を写真と共に紹介します。

 

 

  マカッサルを出たのは9日(土)の午後2時。今回は私とI川さん、そして釣りには欠かせない男「和風人」ことWahyuddin。途中のバル市で氷柱を一本買ってアイスボックスに入れ、現場に着いたのは4時50分。約束に50分遅れて、ソントに「4時って言ってたのに、もう5時だ」ってちょっと「叱られた」。インドネシア人に時間のことで咎められたのは初めてのこと。5時半には荷物を積み込んで出航。今回の漁場はそんなに遠くない。下の写真の左に見える島の反対側くらい。舟で30分くらいのところなのだ。

今回の釣行に使った舟。ソントの舟ではない。残念ながらAさんの舟は老朽化が進んで使えないのだ。今回チャーターしたこの舟は見た目は悪いが中国製の20馬力のディーゼルエンジンを積んでいて、6人は楽に釣りができる。2日間で15万ルピアを「言い値」で払った。約2,000円である。

ただし、この手の舟は「よく揺れます」。むしろアウトリガーのついた手前の舟(舟の乗り降りに利用)の方が揺れない。ソントの舟は手前のタイプ。もっとも、手前の舟よりはずっと大きいんだけど。

漁場に着くと、ソント(白シャツ)が仕掛けの準備を始める。左が和風人。彼が左手に持っているのが釣り糸を巻いたリール。右後ろが助手。この日は船頭ほか助手が2名。

この時点ですでに6時くらいになっていて、いわば「夕まずめ」の一番いい時間を逃したとも言え、それが今回の釣行では痛かった。

 

漁場に沈む夕陽。とにかく「お椀の舟」のように揺れて、まっすぐに撮れない。I川さんは少し船酔いしたようだ。私も酔うのではないかと不安だったが全くなんでもなかった。ただ、いまでも身体が揺れているけど・・。

夕陽が沈むとしばらくして月が出てきてあたりは月明かりで明るくなる。とはいっても舟の上は暗いから、灯油ランタンを2個船上に取り付ける。

朝方になり、月が沈むと今度は「満天の星」が空を覆い、そのうちに東の空が明るくなって星は瞬く間に見えなくなってしまう。

 

 正直言って、今回の釣りは、釣果については過去最低だった。いつもなら、私たちヘボは釣れなくても、ソントがそれなりの魚を釣りあげ、それを見て私たちも、「よし、魚はいる。頑張ろう」、となるのだが、今回に限ってはソントでさえ小物数匹のみ。彼には珍しく朝まで釣り続けていた。いつもなら、ある程度釣ったら寝てしまうのだが・・。やはり責任を感じてたかな・・。

 とにかく夜が長かった。10時半ころには時計を見て、「うわっ、まだあと8時間くらいあるな・・」とか思った。夕方に釣果がないのは本当につらかったなぁ・・。でも、釣りは「寝たら負け」だから・・。餌をとられてそのままになっていれば絶対に釣れないし・・。

 

朝方の船上の様子。とにかく釣れなかったときはドッシリと疲れが出る。釣れていれば、「よし、もうひと踏ん張り」となるし、「もう十分釣ったから帰るか・・」、となるんだけど、釣れなかったときは、「もう少しやれば釣れるかも」、「今日はだめ、早く帰ろう」、といった後ろ向きの気持ちになる。

夜中寝ていた船頭助手(左)も朝方から釣り始めたが、彼も釣果はゼロ。要するに魚があまりいなかったようだ。餌も食いつきが悪く、潮の流れも悪かった。

同じく朝方の船上の様子。

すでに陽が昇り、太陽がまぶしい。手前に見える島が最初の写真左側に見える島。その奥が陸(おか)。舳先に座って錨の始末をする船頭助手その1。朝はベタ凪で舟もそんなに揺れなかった。

夜中は必死で写真を撮る余裕などなかったが、この頃になると「写真を撮ることくらいしかすることがない」ような状態。

 

釣りが終わって帰り道。いつも必ず立ち寄る「ゆでとうもろこし屋台」。なんと30軒くらいが軒を連ねる。トウモロコシはローカル品種で貧弱で甘みもないが、これに「とうがらし入り塩」をすり込んで食べると旨い旨い。本当に中身が貧弱なので、5本くらいは一気に食べられる。一皿に10本くらいで5,000ルピア(約70円)。徹夜明けの空腹には最高。ゆでたてで本当に旨い。

 

 7時に釣りを止め、陸に上がってきたのが8時頃。次回(屈辱戦)の舟の予約をして、8時半にパランロをあとにした。釣果は最低で疲れだけが残ったような気もしたが、途中でトウモロコシを食べ、宿舎に戻って釣具を洗い、シャワーを浴びてビールを飲み、賄いのおばちゃんと後輩のI君に魚を渡して刺身にしてもらった。仕事仲間の奥さんにそうめんを茹でてもらって一緒に食べた。旨かった。

 川もいいけど海もいい。少しは揺れるし濡れるけれど、そんなことは小さなこと。そのうち片道4時間の沖合釣りも試してみたい。

 とにかく気分のいい週末だった。

 

船上でソントと私。老けて見えるけれど、彼は私より若い40歳くらい。子供は7人。5年くらい前に一緒に釣りに行った息子はいまマレイシアに出稼ぎに行っている。

要するに同年代かな・・。

 

2003年8月10日